洞不全症候群とは【医師が解説】症状・原因・検査・治療ペースメーカー・費用と生活の注意点

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Column

ヘルスケアに関するコラム

2025年10月7日

洞不全症候群とは【医師が解説】症状・原因・検査・治療ペースメーカー・費用と生活の注意点

東京大学医学部附属病院 循環器内科 特任臨床医 磯谷 善隆 先生

監修:循環器専門医師 磯谷善隆先生

 

歌手の美川憲一さん(79)が2025年9月13日に洞不全症候群を公表し、ペースメーカー手術を受けたと発表しました。

洞不全症候群(SSS)は高齢者に多い徐脈性不整脈で、脈が極端に遅くなったり一時的に止まることで、めまい・失神・息切れなどの症状を引き起こします。適切に診断・治療すれば日常生活の質(QOL)は十分に保てますが、ペースメーカー治療など心身の負担を伴うこともあります。

 

だからこそ大切なのが心臓リスクの早期発見です。

 

本記事では、最新の医学的根拠に基づき、洞不全症候群の症状・原因・検査・治療法・日常生活での注意点をわかりやすく解説。早期発見に有効な新しいプロダクトまでご紹介します。

 

洞不全症候群(どうふぜんしょうこうぐん/Sick Sinus Syndrome)とは


洞不全症候群(読み方:どうふぜんしょうこうぐん)についてまずは概要を説明します。

 

洞不全症候群は脈が遅くなる不整脈の一種

 

洞不全症候群(SSS)は脈が遅くなる不整脈の一種です。

 

心臓の脈の速さを決める洞結節の機能が低下し、脈が遅くなったり、心停止が起こる病気です。高齢者に多く、脈が遅くなったり一時的に止まることにより、めまい・失神・息切れなどの症状を引き起こします。

 

不整脈についてはこちらの記事もご覧ください。
不整脈は突然死を招くことも…4つの危険な不整脈の兆候を知っておこう

一番危ない不整脈は?結論は心室細動!今すぐ受診の目安・症状・治療を循環器医師が解説

 

心臓のしくみと洞結節の役割

 

心臓のリズムは右心房上部の洞結節が作る電気刺激で始まり、心房→房室結節→心室へと伝わります。洞結節が弱ると徐脈や一時的停止(洞停止)、洞房ブロックが起こり、脳血流低下によりめまい・失神などを生じます。

 

定義と「機能的徐脈」との違い

 

SSSは洞自動能低下または洞房伝導障害で説明される徐脈性不整脈の総称です。運動選手・睡眠時の徐脈や迷走神経反射による一過性徐脈など生理的・機能的徐脈はSSSに含めません。診断は症状とリズム異常の関連が鍵です。

 

Rubenstein分類(I・II・III型)

 

I型:持続する洞性徐脈(しばしば<50/分)。

II型:洞停止または洞房ブロック(P波消失の一過性停止)。

III型:徐脈頻脈症候群(AF/粗動/PSVTなど頻脈と徐脈が交互)。

 

洞不全症候群の症状チェック

 

めまい・失神・動悸・易疲労感

 

心拍が遅くなる(徐脈)と、脳や体に送る血液が一時的に足りなくなり、次のような症状が出ることがあります。

 

●立ちくらみ・ふらつきが起こる

●数秒(3〜5秒)以上の停止で失神することがある

●息切れ・だるさで運動がきついと感じやすい

●徐脈と頻脈が交互に起きるタイプでは動悸を自覚

●受診目安は、失神の既往、強い動悸、息切れが続くときです。

 

無症状で見つかるケース(健診の徐脈)

 

健診で「脈が遅い」と言われても、それだけで病気とは限りません。

重要なのは症状の有無と、運動時に脈が上がるか。

スポーツ習慣などで生理的に遅い場合もあります。

不安なら、結果票を持って循環器内科で総合評価(問診・心電図・長時間記録)を受けましょう。

 

合併症リスク(心不全/心房細動→脳梗塞)

 

心臓の鼓動がゆっくり(徐脈)の状態が長く続くと、全身に送る血の量が足りず、「心不全」につながることがあります。

また、洞不全症候群(SSS)の人は、心臓が不規則に速くなる心房細動を起こしやすいことが知られています。

心房細動があると、心臓の中で血の流れがよどみ、血栓ができやすくなります。これが脳へ飛ぶと、脳梗塞の原因になります。

そのため、心房細動を合併している場合は、脳梗塞を防ぐための「血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)」を使うかどうかを、年齢・持病・出血しやすさなどを踏まえ個別に医師と相談して決めます。

 

原因と鑑別(診断の手順)

 

加齢性変化(線維化)

 

最も一般的な機序は洞結節および周囲組織の加齢性線維化です。

 

二次性・薬剤性(β遮断薬/Ca拮抗薬/抗不整脈 ほか)

 

虚血性心疾患、心筋症、心筋炎、アミロイドーシス、甲状腺機能低下症、β遮断薬・非DHP Ca拮抗薬・抗不整脈薬・ジギタリスなどで徐脈をきたすことがあります。

 

全身疾患・遺伝的要因(SCN5A/HCN4 など)

 

まれにHCN4やSCN5Aの遺伝子変異が家族性SSSの原因となります。

 

「機能的徐脈」を洞不全に含めない理由

 

若年者・運動選手の徐脈や迷走神経反射性徐脈は可逆的・生理的で、器質的な洞結節障害とは異なるためです。治療適応も異なります。

 

検査・診断の流れ

 

12誘導心電図で疑う所見

 

洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック、徐脈頻脈の切替などを確認。ただし一過性のためその場で捉えられないことも多いです。

 

24時間ホルター/イベントレコーダー/植込み型ループレコーダー

 

ホルター(24時間):日常生活下の徐脈や症状時心電図を追跡。

イベント・外部ループ:発作頻度が低い場合に有用。

ILR:原因不明の失神ではClass I 推奨。数か月~数年の長期記録で診断率が向上します。

 

運動負荷・薬物負荷(時間不適応の評価)

 

運動時に心拍が十分上がらない時間不適応(chronotropic incompetence)を評価。目安として「年齢予測最大心拍の80%」または「心拍予備能の80%」に到達しない場合などが用いられます。

 

心臓電気生理学的検査(洞結節回復時間など)

 

高位右房ペーシング後の洞結節回復時間(SNRT)や補正SNRT(CSNRT)を測定。一般にSNRT ≲1.4–1.6秒、CSNRT ≲500–550msが目安とされます。解釈は自律神経影響も考慮し総合評価します。

 

併存疾患評価(心エコー/胸部X線/血液・甲状腺/睡眠時無呼吸)

 

構造的心疾患や甲状腺機能異常、睡眠時無呼吸(徐脈やAFの悪化因子)を確認します。

 

治療方針

症状の有無で変わる適応(無症状は経過観察が基本)

 

SSSでは症状の有無が治療適応の中心です。無症状で重篤な徐脈・停止がなければ経過観察が基本。症状(失神・めまい等)と徐脈の関連が明確な場合は恒久的ペースメーカーの適応です。

 

薬物療法の位置づけ(イソプロテレノール/テオフィリン/シロスタゾール)

 

一時的な対症処置としてイソプロテレノール・アトロピン等を用いることはありますが、長期コントロールは不安定で第一選択ではありません(個別判断)。

 

ペースメーカー治療(AAI/DDD、MVP/SafeR等のモード最適化)

 

基本戦略:洞房伝導が保たれるSSSでは、心房起源の生理的ペーシング(AAI/DDD)を選択し、右室ペーシングの最小化(MVP™/SafeR™/AV間隔延長など)でAFや心不全リスク低減を図るのが近年の潮流。

手術の流れ:局所麻酔で鎖骨下静脈からリードを留置・本体を胸部皮下に植込み(60–90分程度)。合併症は気胸・リード位置異常・感染など。

 

手術の流れ・合併症・在院日数

 

施設差はありますが、1–2時間の手術、数日~1週間前後の入院が一般的です。術直後は創部ケアと上肢挙上制限(医師指示)に留意します。

 

リードレスペースメーカーの適応と限界

 

リードやポケットを使わないリードレスPM(例:Micra™)は感染・リード関連合併症の低減が期待され、近年は電池寿命も中央値15–17年程度に延伸した次世代機が登場しています。ただし二腔ペーシングが必要な症例では限界があります(適応選択が重要)。

 

徐脈頻脈症候群の併用治療(アブレーション/抗凝固)

 

AF合併では、抗凝固療法やカテーテルアブレーションを併用し再発・塞栓症リスクを抑えます。

 

日常生活の注意点(術前・術後)

 

脈拍セルフチェック/症状日記

 

めまい・失神・動悸が起きた日時・状況、脈拍(スマートウォッチ等でも可)を記録すると診療がスムーズです。

 

運動・仕事・運転の目安(具体例)

 

無症状なら軽~中等度の運動は多くの場合可能。症状がある間は高所作業・危険作業・運転を控えます。

ペースメーカー植込み後は、創部が落ち着けば日常運動の再開が可能。接触の多い競技や胸部強打の恐れがある競技は避けましょう。

運転:日本不整脈心電学会の運転に関する解説では、ペースメーカ(CRT-P含む)植込み後は原則許可と明記(詳細は主治医指示に従う)。

 

家電・スマホ・磁気・空港保安検査の実務ポイント

 

スマホ:装着部位から15cm以上離して携行・通話は反対側の耳。混雑時は配慮を。

 

各種機器:IH・溶接機・大型モーター・店頭の盗難防止ゲート・空港検査などは近づき過ぎない・長時間立ち止まらない・手帳提示で係員に申告。患者向け注意資料にも具体的距離や注意が整理されています。

 

MRI:多くの機種でMRI条件付きに対応が拡大。機種・リードの組合せにより撮像条件が異なるため、必ず手帳とメーカー情報を提示。

 

服薬管理(徐脈を助長する薬への注意)

 

β遮断薬・一部Ca拮抗薬・抗不整脈など徐脈を助長し得る薬は自己判断で中止しない。医師へ必ず相談を。

 

費用・保険制度・デバイス寿命

 

植込み・電池交換の概算費用と自己負担(高額療養費の考え方)

 

医療費総額の目安:機種・入院形態で幅がありますが、概ね150万円前後とする医療機関の解説があります(3割負担なら約45万円相当)。実際の負担は施設・保険種別で異なります。

 

高額療養費制度:自己負担は月ごとの上限(年齢・所得で異なる)を超えた分が後日支給、または認定証提示で窓口限度。申請手続きは加入保険者へ。

 

※金額は一例です。最新の自己負担上限・各種公的支援は、加入保険者・自治体窓口でご確認ください。

 

耐用年数・交換目安(遠隔モニタリング含む)

 

一般的なPMの電池寿命は設定・ペーシング依存度で変動。近年は自己最適化や遠隔管理で寿命延長と安全管理が進歩。リードレスPMの次世代機では中央値15–17年と報告。

 

就労・介護で使える公的支援

 

身体障害者手帳や医療費助成等の対象となる場合があります。等級や要件は自治体で異なるため、医療ソーシャルワーカーや市区町村窓口にご相談ください。

 

受診ガイド

 

すぐ救急へ行く症状/外来で相談すべき症状

 

救急:意識消失、けいれん、強い胸痛・息切れ、明らかな黒色便・脱水に伴うふらつきなど

外来:反復するめまい・動悸・易疲労、徐脈の自己測定で極端な遅さ(~40/分目安)

 

専門医の探し方と受診準備チェックリスト

 

日本循環器学会認定の循環器専門医/不整脈専門施設を検索

症状日記・お薬手帳・これまでの心電図/ホルター結果を持参

 

セカンドオピニオンの活用

 

治療選択(リードレス vs 二腔、設定、合併症対策)で迷うときは遠慮なく相談を

 

予後・長期フォローアップ

 

自然予後と生命予後の位置づけ

 

SSS自体は生命予後への直接影響は小さいとされ、予後は基礎心疾患や合併症に左右されます。適切なデバイス治療でQOLは改善が期待できます。

 

ペースメーカー治療後の生活とQOL

 

定期対面チェックに加え遠隔モニタリングの導入で、異常の早期検知・受診間隔延長・入院期間短縮・予後改善効果が報告されています。

 

合併症のモニタリング(心房細動・心不全・脳梗塞)

 

AFの発症・負荷、心機能、塞栓症リスク(CHA2DS2-VASc等)を継続評価します。

 

 

洞不全症候群(SSS)についてまとめ

病態のポイント/よくある誤解

 

洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome:SSS)は、心臓の自然ペースメーカーである洞結節の機能低下や洞房伝導障害により、脈が遅くなる・止まる・不規則になる病態の総称。多くは加齢に伴う線維化(加齢によって臓器や組織に過剰な線維組織※コラーゲンなど が蓄積し、その正常な機能が失われる状態)が背景です。

 

「機能的徐脈」(アスリートや睡眠時、迷走神経優位など)はSSSに含めません。病気ではなく生理的反応のことがあります。

 

めまい・失神は数秒の心停止で起こり得ます。とくに徐脈頻脈症候群(心房細動などの頻脈と徐脈が交互に出る状態)では注意します。

 

受診の目安と緊急性(救急受診のサイン)

 

今すぐ救急:失神・けいれん、強い胸痛や息切れ、長いふらつき、座っても治まらない強い動悸。

 

なるべく早く循環器内科:反復するめまい・易疲労・労作時息切れ、脈が極端に遅い(~40/分目安)や不規則を繰り返す。

 

原因不明の失神が続く場合は長期記録(外来モニターや植込み型ループレコーダー/ILR)が早期診断に有用です。

 

治療の第一選択と予後

 

無症状は経過観察、症状があり徐脈と関連が明確なら恒久的ペースメーカーが第一選択。

日本循環器学会のガイドラインにも記載があります。参照:日本循環器学会.“2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン

 

植込み後は多くの方で症状・活動性が改善。遠隔モニタリングの標準化が進み、合併症の早期把握にも役立ちます。

 

美川憲一さんの歩んだ歌と人生

 

1946年、石川県に生まれた美川憲一さんは、「柳ヶ瀬ブルース」「さそり座の女」などのヒット曲で一世を風靡。華やかな衣装やユーモラスなトークで世代を超えて愛される歌手となりました。歌手活動だけでなく、バラエティや舞台でも活躍し、常に「人を楽しませたい」という思いを大切にしてきました。

 

美川憲一さん、洞不全症候群の公表と前を向く姿勢

 

2025年9月、美川さんは心臓のリズム異常「洞不全症候群」と診断され、手術を受けたことを公表。療養中もファンへの発信を続け、「病気でも前を向いて生きたい」と語る姿は、多くの人々に勇気を与えています。高齢者に多い不整脈で、めまいや失神などの症状が現れる洞不全症候群。美川さんが病と向き合う姿勢は、同じ症状に悩む方への大きな励みとなっています。

 

 

洞不全症候群から命を守るための早期チェック「ホーム心臓ドック®」

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洞不全症候群や心房細動などの不整脈は、発症前に気づくことが難しいのが現実です。

 

だからこそ「症状がないうちに調べる」ことが大切。自宅で心電図が測定できる「ホーム心臓ドック®」なら、洞不全症候群を含む心臓リスクの検出が可能です。

 

在宅型で、忙しい人でも気軽に早期にリスクを察知できます。オンラインクリニックも完備しており、緊急性が高い方はそのまま大学病院への紹介状もお渡しできます。

 

健康管理は“守る”から“見つけに行く”へ。日常的なセルフチェックが、命を守る一歩となります。

 

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よくある質問(FAQ)

 

無症状でも治療は必要?

 

無症状なら基本は経過観察。症状と徐脈の関連が明確な場合にペースメーカー適応です。

 

運動/旅行はどこまでOK?

 

主治医と相談の上で多くの運動・旅行は可能です。術後は創部が落ち着くまで無理を避け、接触の多い競技は控えます。

 

ペースメーカーは端末や家電で誤作動しない?

 

通常の家電は問題ありませんが、スマホは装着部から15cm以上、盗難防止ゲートや空港金属探知機の至近長時間滞在は避ける、係員に申告を。

 

薬で根治できる?

 

根治的に洞結節機能を回復させる薬はありません。長期管理はペースメーカーが標準です。

 

ペースメーカーの交換のタイミングと合図は?

 

外来および遠隔で電池残量を管理し、寿命予告(ERI/NEOL)表示後に計画的に本体交換します。

 

 

免責事項:本記事は一般的情報の提供を目的とし、診断・治療の最終判断は必ず医師の診療に基づいて行ってください。急な症状の悪化や失神などの危険サインがある場合は、ためらわず救急受診してください。

 

 

監修医師・執筆体制

 

監修:循環器専門医師 磯谷善隆先生